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そりゃまあ僕も

20代会社員、男。音楽、カメラ、時事ネタなどの雑記日記です

とてもつらい

音楽や小説が好きな人が書いてます。主なカテゴリ↓

身長160cm以下の成人男性が服を探すたびに味わう地獄について

雑記 雑記-日記

服を買うのが嫌いだ。
成人男性であるにも関わらず人類として若干背丈が足りない規格外生命体である僕にとって、
服を買うことは多大なストレスを伴う。



今年の春、僕は私服のジャケットを買おうとした。
そう、ジャケットが欲しいと思った。

思い起こせば高校生の頃からずっと欲しかった。僕はずっとジャケットやシャツが着たかった。ずっとだ。ずっと着たかった。
まるで普通の人間のように、ジーンズにシャツを着て、ジャケットを羽織りたかった。
綺麗目だとか着崩したりだとかなんだっていい。とにかくジャケットが着たかった。
しかし、着れなかった。
より正確に表現すれば、僕の周りの世界は、僕にそれを許さなかった。

僕の身長は158cmである。小学六年生男子の平均身長くらいだ。16歳の女子高生の平均身長でもある。
これで僕が本当に女子高生ならば世界はもっと優しかっただろうが、残念ながら僕は成人男性である。20代の男性として僕はこの文章を書いている。
公衆トイレで背の高い人が隣に立つたびに怯える、哀れな規格外生命体だ。

さて、話をジャケットに戻そう。ユニクロのセールで5990円で売っている、布のことだ。

例えば君は僕の話を聞いてこう言うだろう。
「ユニクロにもSサイズのジャケットはあるじゃないか。ジャケットが欲しいならとりあえずユニクロでも行けよ」
これが僕と世界の認識の違いである。
僕はユニクロで服を買うことができない。
ユニクロは規格外生命体である我々から見れば、非情且つ差別的な企業である。人類を身長で切り刻む非人道的企業である。
彼らは一方の腕でNPOや発展途上国支援を行い、もう一方の手で日本国内の身長160cm以下の男性に服を与えず、迫害しているのだ。
そう、世の中のSサイズは、僕たちには大きすぎる。
背伸びをしても届かないものがこの世界にはたくさんある。星空を隠す雨雲のように、ユニクロのSサイズジャケットは僕のお尻を覆ってしまうのだ。

そんな具合で、僕が服を買うときは大いなる苦痛を伴う。肉を裂き、骨を砕く。ストレスでもっと身長が縮んでしまう。
苦痛に耐え、忍び難きを忍び、ジャケットを探してきたのだ。
一人の成人男性として。人並みに生きたい、規格外生命体にも着れる服が欲しい。

大阪の予算内で買える服屋を片っ端から攻めた。
服屋の交渉のパターンは大体つかんでいる。
楽器屋の「ESP」、「ビッグボス」で学んだ店員避けの技術を駆使して、狙いのジャケットに素早く近づきタグを確認する。
値段なんてどうでもいい、僕が見るのは「S M L」のサイズ表記のみだ。
「M L」のみのタグだったら、僕は大人しく店を出る。店員を睨みつけて、呪いの言葉を飲み込み、次の店を探す。
Sサイズがあれば、それを自分の肩の高さに合わせてみる。それからおそろおそる着丈を見て、すべての希望を失う。
近づいてきた店員に間髪一撃にこう尋ねる
「すいません、ジャケット探してます。この店で一番小さいの持ってきてください」
店員はあれこれ苦労して、とりあえずSサイズを探してくれる。
「でもほら細いですよね、これの生地は扱いやすくて〜!これが着れる人は珍しいですよ!」
「あーいや、僕のサイズには合わないですねー。」
僕のサイズはSサイズにはない。困惑することになる。
僕の手の甲を覆うこの布はなんだ?これを袖というのか?ケツを覆うコレはなんだ?オムツ?裾…?これが裾???
そんな言葉は飲み込む。目の前でオシャレをキメてる店員には理解されない言葉だ。

このやり取りをあの店、この店で繰り返す。もう何年も繰り返している。
僕の心は少しずつ麻痺していく。傷口はかさぶたになり、折れた骨はより強くなる。そうして、僕たちの心は大人になるにつれて固く閉ざされていくことになる。

悲しみに暮れつつ、その日の僕が迷い込んだのはコムサイズムだった。
普段の僕なら絶対に入らない。ファイブフォックス系列は店員がウザい。田舎の高校生でも知っている。人類の常識だ。

しかし、たとえ店員がゼルダの伝説のリーデッド並みにウザかったとしても、僕の戦術は変わらない。御茶ノ水のビッグボスで鍛えた僕には敵わない。

僕は店員の接近を許さない。

服を見ながら常に視界の隅に店員を捉える。歩きながら店員の動線を確認し、棚を利用して距離をとる。逆周りに歩く。
もちろん相手はプロの押し売りである。巧みに僕の死角に回り込み間合いを詰めようとしてくる。まともな人間ならひとたまりも無いだろう。
だがそれでも僕は彼らを近づけない。おもむろに踵を返し、他の客の影を利用して姿を隠す。
僕がバスケ漫画の脇役だったら確実に「ホークアイ」とかいうアイタタネームの技を身につけているだろう。フィールドの敵キャラの位置くらい常に把握できる。

店員を撒きつつ物色したが、その店にもジャケットは無かった。
もはや悲しみすら感じない。
ビンゴ大会で最後までリーチにすら成立しない時の気分に似ている。番号はある。しかし前には進まない。

僕の厳戒態勢の隙を突くべく、6時の方向から敵機が近づいてくる。そこが僕の死角だと思ったのか。馬鹿め。丸見えだ。
しかし僕はとにかく疲れいた。もう逃げるのも面倒くさくなった。迎え撃つしかない。
僕は頭の中で呪文を反芻する。
「一番小さい服をください」
ファイナルファンタジーの世界ではアルテマという名前で呼ばれている魔法だ。ファイブフォックスでこの魔法は通じるのだろうか。
「お兄さん、何かお探しですかー?ジャケット?一番小さいやつ?やっぱりーwww後ろから見てて絶対そうじゃないかとおもってたんですよ、うちで一番小さいやつならコレですよ!コレ!本当に小さくて、正直誰も着れなかったんです、だから見てほらこれ、18000円の商品なのに、シールで11000円に直してるんですねー。この前、小学六年生の男の子連れた家族連れの方にオススメして、その男の子でぴったりでした!それくらい細いです!」
ベヒーモス級の接客モンスターだった。
さすがの僕も、1ダース分くらいの"""無礼"""を正面から食らうとは思わなかった。リフレクだ、リフレクを使わなきゃ。

「いや、絶対デカいと思いますよ、もう無理だと諦めてるんで……」
こういう輩には下手に出て、目の前で堂々と試着するのが一番効果的だ。身長158cmをなめるな。Tシャツは着丈60cm、それ以外も63cmまでが基準だぞ。


しかしいざ袖を通してみると、意外と細い。着丈こそ僕の理想よりやや長いが、それでも他のジャケットもどきほどの違和感はない。と思う。なにしろ生きてるだけで違和感のある体だ。一日中身長を否定されてきて、何が正しいのかわからなくなってきた。

困惑する僕に向けてベヒーモスが追撃を始める。
他のモンスターを指差してこう言った。
「あそこにいる彼、あの店員が165cmなんですよ、彼も着てたんですけど、彼はお腹がある分着れなかったですねー、お兄さんはお腹出てないしスラッとしてるんでぴったりですね!絶対これしかないと思いました」
おう。スラッとしてるか。面白いことを言うじゃないか。まあ僕、160cm無いですけどね。
「えっ……そうなんですか」店員が仰天する。

ワハハハ、舐めてもらっては困る。身長を告げれば相手がこうなることはわかっている。必殺技だ。えーっと、ファイナルヘブン、ファイナルヘブンって名前にしよう。僕はこれでも身長158cm、数々のハードルをくぐり抜けてきたんだ。参ったか。

「絶対160cmあると思ってました!全然見えないですねー!えー!?あ、ジャケットなら一応他にも……」
ダメだ、効かねえ。
いや、まあ確かにサイズは悪くなかった。コムサに1万円を出すのは癪だけど、そうでなくとも服はない。
降参だ。僕は諦めた。試合終了。ゲームオーバー。タイトル画面に戻る。

その後、ベヒーモスは意気消沈した僕を「店内一周、小さい服、小物お買い回りツアー」に強制参加させた。簀巻きの状態で曳き回され、へんちくりんデザインの在庫を見せつけられる苦痛を僕は忘れない。思い出しただけで愛想笑いで口が引きつってくる。
お会計のあと、コンテニューボタンを探す僕に向かって、ベヒーモスはこう言った。
「またぜひいらしてください!小さい服、用意しておきます、探しておきますので!」


もう絶対行かねえ